Smile
オーボエ奏者・宮本文昭の音色に魅了され続けてきた者です。娘の宮本笑里のヴァイオリンは、テレビの「題名のない音楽会」で聴いていますし、父のCDにも登場していますので、その豊かな才能は理解していましたが、今回彼女のデビューCDを全曲聴きながら、それは確信に変わりました。父親譲りのヴィルトオーゾで、実によく歌い、類稀なる表現力を受け継いだと思います。低音も高音も伸びやかで良く鳴っていますし、上品で芳醇な香りが漂ってきました。 彼女の成長を願って少し指摘すれば、J.S.バッハの「主よ、人の望みの喜びよ」のように、分散和音で弾く場合、個々の音程が少し甘くなっています。ポルタメントを多用し、レガート奏法を意識するあまり、その辺の微妙な音程にリスナーは気がいくかもしれません。 父と共演した「第三の男(サッポロビール「ヱビス」CM曲)」は楽しく聴かせてもらいました。ステファン・グラッペリの音色を彷彿とするような芳醇でスウィングするヴァイオリンです。魅力的なアレンジとともに、このボーナス・トラックはありがたい特典でした。 カッチーニの「アヴェ・マリア」は、父・文昭がメイン奏者とも言えるアレンジです。泣けてくるような抒情的なフレーズの処理は天下一品ですね。この演奏は何回も繰り返し聴きました。引退は本当に惜しい、と改めて思いましたが、その才能を娘や後進へと引き継いでもらうのもまた日本の音楽界にとって重要なことでしょう。笑里の演奏も情熱的ですし、伸びやかでいいのですが、情感を内に秘めているような演奏ができれば最高だと思います。 書き下ろしの岩代太郎作曲の「無言歌集」はいいですね。静謐でありながら感動的でもあり、ヴァイオリンの魅力を引き出すバックの弦の扱いなどは秀逸でした。 見目麗しく、演奏も素晴らしい宮本笑里の今後の活躍に注目したいと思っています。