ふしぎ工房症候群 EPISODE 3「ひとりぼっちの誕生日」
<物語> 大手商社に勤める僕の望みは、同期の誰よりも早く出世して、社会的地位を築き上げること。そうやってずっと上手くやってきた。これから先もそのつもりだった。 そんなある日、突然彼女から「田舎の両親に会って欲しい」と頼まれる。しかも、今晩だと言う。でなければ、見合いをさせられると涙ながらに訴えられた。 今日は大事な契約の日だし、夜はその祝賀会の予定が入っている。 「見合い、すれば?」 彼女を冷たくあしらった後、会社に戻ると何故かみんなの様子がおかしい。部長に呼ばれて出向くと、同僚のひとりが僕の変わりに今日の契約に出かける旨を宣告された。 そんなバカな! この契約をとりつける為に僕がどれ程がんばったと思っているんだ。一体、なにがまずかったんだ? ショックを隠せない僕は、そのまま会社を飛び出した。 その日は人生の中で最低最悪の一日だった。暇つぶしのパチンコも面白くない。酒を飲んでも酔えない。 目的もなく街をさまよい歩く僕の目に、「ふしぎ工房」と書かれた看板が飛び込んできた。誘われるように中へ入ると、老人がひとり座っているだけの何の変哲もない店だった。 「ここでは幸せを売っている」老人の言葉に、「ばかばかしいにも程がある。じゃあ、このオレを出世させてみろよ」と半ばからかうように注文を出した。 「ふしぎ工房」を出た僕は、立ち寄った小さなバーのカウンターで、自分と同じ誕生日だという男に出会う……