D.I.V.E
ダイブは日本人プロデューサーSupercoziによる2013年発表のシングルだ。 この作品を語る上で大事なのが、サイ・チル(サイケデリック・チルアウト )、サイ・ダブ(サイケデリック・ダブ )と呼ばれる音楽の発祥だ。 レゲエをルーツとしたダブは、世界で多様なエレクトロニック音楽に影響を及ぼした。特に90年代以降は、ダブと電子音楽を融合させサイケデリックなひねりを効かせた音楽が英国を中心にたくさんリリースされた。これらはサイチルと呼ばれ、主にフェスティバルのチルアウト・エリア(リラックスしながら、ダンス音楽とは違う多様な音楽を楽しむ場所のこと)でDJ達がプレイするために作られ、独立レーベルによってコンピレーションの形でリリースされた。 彼女は90年代後期にDJを始めたのち、このジャンルに特化したチルアウトDJとして海外の大型フェスティバルにブッキングされるようになっていった。2000年に出会ったプロデューサー、ガス・ティルとイギリスで結婚、出産してからは、ゼン・レモネードというユニット名で夫と数々のサイ・チルやサイケデリック・トランスの楽曲を制作、リリースするようになる。ティルはUKサイトランス黎明期から複数名義で数々のヒット・シングルを既にリリースしていたが、このサイ・チルというジャンルでも独特の音世界を持つアーティストとしてリスペクトされていた。彼と長時間スタジオで共同制作をする中で、彼女がどれほどのスタジオ技巧を学んだかは想像に難くない。また世界各国のフェスでプレイしながら、シーンの最先端の音を浴び新たなアイデアを吸収していった。 これ以前の作品にもサイチル調の曲は収録されているが、それらはシングルとしてカットできるほどのインパクトには欠けた、いわばアルバム曲としてのイージーリスニングとも言える。だが2012年にオーストラリアのケアンズ郊外で開催されたイクリプス・フェスティバルで彼女は衝撃を受ける。 皆既日食を見るため集結した何千人ものクラウドは複数のステージで7晩8日にわたって多種多様な音楽を聴けた。サンフランシスコから来たリーズンとライブをした彼女は、それらのステージで特に当時勢いを増していたベースミュージックやダブステップ、グリッチの音世界に飛び込み興奮する。今まで聞いてきたダブ系エレクトロニック音楽よりもアグレッシブ(攻撃的)で、エッジーで、 サイケデリックな音世界に沢山の人々が我を忘れたように踊る姿が目に焼きついたという。この感動が冷めないうちに早く新曲に取り掛からねばと感じた彼女は、バリ島の自宅スタジオに戻ってからプロダクションに専念し、リーズンの声に幾重にもフィルター加工をし完成したのがダイブである。 ヘビーな複数のベースにシンセが重なり、トリッピーなヴォーカルが交差する。チルであると同時に横ノリで踊れる曲だ。また疾走感のあるミッドセクションも意外性のある展開がオルタナティブ感を出している。 このシングルは、彼女にとって脱皮した自分の音世界を告げるステートメントであったのだ。 そしてこの3年後リリースされた三枚目のアルバム、バイオシフターでその音世界はさらに多様化し進化していった。