やさしい風~いくつもの風景
ライト・クラシックだそうで。加羽沢自身の作曲・編曲で,きわめて映像的視覚的サウンドというところがおもしろい。この手の音楽にありがちな安易なスコアでなく構成力もある。演奏もそれなりに緊張感を持っている。ストリングスの厚みのある扱いがいい。 ひとことで言えば“プライヴェート・ミュージック”だろうか。高嶋ちさ子(vn)とのデュエットによる前作『ミノ&チサ』に較べると作品やアレンジの自由度がより高く、そのぶん私的なエッセンスや、世界の広がりが強調された。ポップス寄りの録音を採っていることもあり、“クラシック”というカテゴリーにとって収まりのいいものではない(前作は本誌でもクラシックの扱いではなかった)が、アコースティック・サウンドのファンにとっては楽しめる仕上がりになっていて、このアルバムの狙いもズバリそこだろう。ここのところ特に目立つ、これらセミ・クラシック志向のミュージシャンたちの積極的な活動が、数年後にどう出ているか。変動のさなかにある日本のクラシック・シーンの未来を占う音楽として聴いてみてはどうか。なお個人的には、こういう私的な音世界は、もっと生々しい感触の音で聴きたいと思っている。次の機会にはそんなチャレンジにも期待したい。 (榊順一) --- 1999年09月号