ちあきなおみ 男の郷愁
このアルバムは、ちあきなおみがテイチク時代に放ったオリジナル・アルバム『男の郷愁』(1989.3.21)の復刻版です。 復刻に当たって、新たにリマスタリングを行うことなく、オリジナル・カット・マスターを使用したとのことですので、当時の音そのものが再現されています。 この後に発売されたアルバム『女の心情』(1989.6.21)と一対で企画された、カヴァー曲だけで構成されたアルバムで、どちらもタイトルに示すように、男歌と女歌に色分けしたものが収められています。ちあきなおみ自身のカヴァー曲「矢切の渡し」はどちらに入れてもおかしくないのですが、同じくセルフ・カヴァーされた「さだめ川」が『女の心情』に入っているので、その都合からこちらのアルバムに回されたのでしょうか。 ここに収められている何れの歌も、それぞれの時代を色濃く反映したものですが、そして沢山の歌手によってカヴァーされていますが、時代性と普遍性という相反するものを止揚し得たのはちあきなおみだけのように思います。 傑作揃いですが、その中にあって「男の友情」は大傑作だと思います。 船村徹がまだ駆け出しの頃、東洋音楽学校(現東京音楽大学)で知り合った高野公男と数々のヒット曲を世に送り出しますが―ちあきなおみは、この「男の友情」の他に「別れの一本杉」・「あの娘が泣いてる波止場」もカヴァーしています―二人してコロンビア専属となって、さあこれからというときに高野公男は郷里の病院で、船村宛の一片の詩を遺して、肺結核で他界します。高野26歳、船村24歳のことでした。 この詩を手にしたときの、高野の心情を慮った、船村の哀切の情は如何計りだったのでしょうか。 ちあきなおみの歌う“♪東京恋しや”のサビのところの哀調を帯びた譬えようの無い美しさに、船村徹が滂沱の涙を流したであろうことは察するに難くない、と思うのです。