百花繚乱
平成3年に発表したオリジナルアルバム。映画主題歌になり根強い人気の「紅い花」を含む、ヴォーカリスト、ちあきなおみを堪能できるアルバム。 このアルバムは、ちあきなおみがテイチク時代に放った最後―飽くまでも長期休業に入る直前までという意味です―のオリジナル・アルバム『百花繚乱』(1991.10.23)の復刻版です。 復刻に当たって、新たにリマスタリングを行うことなく、オリジナル・カット・マスターを使用したとのことですので、当時の音そのものが再現されています。 アルバム制作は、複数のものが同時・併行的に行われたりするので、場合によっては発売が前後することもあると思うのですが、佐々友成氏―前年の『かげろふ~色は匂へど~』以来、『すたんだーど・なんばー』、そしてこの『百花繚乱』と、ちあきなおみの3つのオリジナル・アルバムの制作に携わったディレクタです―によると、このアルバムに収められている「紅い花」の再収録が最後のものであったとのことですので、間違いなく最後に制作されたオリジナル・アルバムということになります。 一旦は納得したものの、どこか気に入らないところがあったのでしょう、深夜であるにもかかわらず再収録が行われたといいます。そこにちあきなおみのプロフェッショナルとしての執念を見て取ることができます。 これほどに歌に対する執念を持ちながら、何故に“もう歌いたくない”を口にして、翌年の夫郷エイ治の死を契機に、私たちの前から姿を消したのでしょうか。 彼女を支えてきた人々を失ったこと―母の死、東元晃氏のテイチク社長退任、そして夫の不治の病とその死―による絶望感もあるのでしょうが、支えるべき対象を見失ったことによる虚脱感もあるように思うのです。 ちあきなおみは、幼い頃から約40年もの長きに亘って、ずっと家族を支えてきました。そこで培われていったのが、彼女の“歌うことへの執念”です。ですから、支えるべき対象が無くなったことで、その執念もが消え失せてしまった、と考えても別におかしくは無いのです。 周囲がいくら支援を申し出ても、暖簾に腕押しなのは当然のこと。彼女自身が“自らが奮い起つことのできるもの”を見出さない限りは、私たちの執着には目も呉れず、彼女の執念は押し黙ったままであるに違いありません。 このアルバム制作が最後になることを、彼女自身が意識していたかどうか迄は分かりませんが、燃え尽きたと表現されるような内容ではありません。むしろ爛々と燃え盛る様を見せ付けるような素晴らしい作品ばかりです(テイチク時代のものは粒揃いですが、その中にあって、このアルバムは一二を争う出来映えだと思います。全9曲の中の7曲が『VIRTUAL CONCERT 2003』と『VIRTUAL CONCERT 2005』に収録されていることから、関係者の間でも高い評価を得ていることが分かります)。であるからこそ、今も、彼女へのカーテンコールが止むこと無く続くのだと思います。