かれん
私たちにはふだん胸の引き出しの片隅にしまってある懐かしいメロディがある。ほのかな郷愁と切ない恋惰へと誘うそんな歌謡曲の数々を米良美ーは清新な感覚で綴っていく。1曲目の「すみれの花咲く頃」から彼の歌声は心の琴線にふれ、透明感のあるカウンター・テナーの美声で丁寧に歌い込まれた各曲を聴き進むにつれ、高まる情感に胸締め付けられる思いがするに違いない。日本歌曲をライフ・ワークの一つとしている米良の発音の正確さは格別で、「見上げてごらん夜の星を」の切々たる表現も日本語の美しさがあればこそだろう。さらにここでは「恋心」に漂う不思議なあだっぽさ、「月がとっても青いから」の艶やかな歌声など、折り目正しいバッハのカンタータや驚くべき鋭さで詩の奥へ踏み込んでいく彼の日本歌曲からは想像もつかない新しい境地が窺える。レトロな雰囲気と現代的な感覚を織り交ぜた小粋なアレンジが、若きカウンター・テナーの創り出した新しい歌の世界に華を添えていることも付け加えておきたい。