It's Here
このアルバムは私にとって、とにかく驚きに満ちた、生命感溢れる真っ直ぐな作品になったと思う。 今、こうやってアルバムについて書こうとしても、自分自身、とても不思議な気持ちになるのだけれども、それはまず、このアルバムで初めて、詞だけでなく曲も作ったと言う事、そしてそれが子供をお腹の中に抱えている時と重なったからで、なぜ、そんな大仕事が一度に出来たのか、自分でも本当に分からないからです。 前作のサウンドプロデューサーであった大友良英さんとジム・オルークさんに、「自分でも書けそうだね」と言って貰えた事で、試しに軽く挑戦してみたのが最初のきっかけだったのだけれども、その事と妊娠した事が何故か必然的に感じてならず、それ以来、運命ということについて考えることがより多くなったように思います。妊娠中というのは、体のしくみが大きく変化する為に、脳の働きも普段とは変わり、感覚的、本能的になると本などにも書いてあったのですが、そんな時期に本気で集中して作曲や演奏、歌を歌うという事がこんなに衝撃的であるとは思わなかったし、自分ではクールにいたつもりだったのです。けれども振り返ってみると、それはまるで一瞬にして世界旅行をしたような超体験で、その素晴しい風景や、出会い、時間の記憶は鮮明にあっても、その場所の名前や、どのように移動したのかなど、ツールのようなものは全く消えてしまって、思い出せない。そんな風だったように思います。 いつもは曲やアルバムのタイトルを考えたり、名前を付けたりするのが大好きな自分が、今回は本当に本当に難しく、最後の出口を失ったように感じて困ってしまった。それは自分で作った迷路の中で迷い、焦って走りながら、手のひらで 壁をガリガリと伝っているような感じでした。アルバムのタイトルは、そんな感覚の中から生まれてきたもの。それがかえって真っ直ぐなアルバムになったと思う理由のひとつです。自分で書いた歌詞の中に、hereという言葉が出てくる事が多く、それは何故だろう?と考えていた事。そして私にとって一番確かなのは、そして一番大切なのは、今、ここにいるという事....。 あの時お腹にいた娘は、今、私の腕にピッタリと顔をくっ付けて温かい寝息を立てています。私は自分でも、こんなものが自分の体から出てきたなんて未だに信じられず、毎日驚いています。そして、破裂しそうなお腹を抱え、いっぱいになっていた私を支えてくれたスタッフに感謝しています。