黒衣の下の欲望と、苦悩の果てに視た百景の百合達

現在では、圧倒的な人気を誇るSadieの1stシングル。 長ったらしいタイトルを見てみると、どの辺りのバンドに影響を受けているのかがわかりやすくて、面白いかもしれません。 今でこそ、ラウド的な音の中に、メロディアスさを上手く織り込んでいて、オリジナリティを出せるようになってきたSadieですが、この頃は、はっきり言ってしまえば、Dir en greyの二番煎じのガゼットの二番煎じといったイメージ。 コテコテで激しい暴れフレーズを中心に、昂揚感のあるメロディをサビに添えて、バンギャル男が求めている音楽を再現してみました、的なサウンドになっています。 そういう意味では、個性的ではないのですが、現在の人気があるのは、その辺のツボの押さえ方が、他の二番煎じバンドよりもハイクオリティだったからかな、と。 DirがやらなくなったDirっぽい曲をやってくれる。それはそれで、ニーズではあるのです。 「淡き群青」は、重苦しく淡々と演奏されるミディアムナンバー。 このバンドは、ミディアム調の曲に対してのメロディの乗せ方が、忠実に京さんを再現しているなぁ、と思う。 サビ部分で、やや疾走するので、メリハリが効いていて聴きやすさはあるのではないかと。 演奏は、かなり粗さがあるものの、王道感はあります。 「赤蝶々」は、音楽的には多少ラフになって、重さよりも複雑な展開と、歌謡メロディを前面に出してみたような構成。 こちらは、Dirっぽいというよりも、むしろ初期のガゼット的。 重さとメロディアスさが交互に訪れる難解さはあるものの、メロディ自体はキャッチーなので、1曲目同様、聴きにくさはあまり感じません。 ハードで研ぎ澄まされた、現在のSadieからは、あまり想像できない系統の楽曲かも。 ベストにも収録された「妄想被虐性癖」は、清々しいほど暴れ系に割り切った一曲。 イントロでは、重たくスタートするものの、ブレイクを挟んでからは、ひたすらツタツタ。 ここまで、ジャリバン感のある楽曲であれば、メロディがなくても気持ちいい。典型的な煽り曲ですね。 太いシャウトは、ラウドに傾向してきた時期のDirっぽさがあり、その掛け合いは男らしくて格好良いです。 なんとなく、ドラムがバタバタしている印象はありますが、演奏の粗さも、この手のバンドっぽくて、聴きようによっては味かもしれません。 正直、この音源の評価は、音楽の好みというより、哲学によって分かれるのではないでしょうか。 この後、ラウド系に転ぶところも含めて、Dir⇒ガゼットの系譜なのですけれど、結局、こういう音楽を好むキッズは、今もなお多いですし、先入観なしに聴いたら、コテバン好きの耳には馴染む。 一方で、個性がないという批判も当然あるでしょうから、音楽的には好き、スタンスは嫌いという層も生まれてきて然り。 スタンダード、王道という言葉が、どのレベルまで通用するのか、どこからがパクりなのか、そういった基準が人それぞれである以上、無碍に良いとも悪いとも言えない、難しいラインであると思います。 もっとも、こういうレビューができるのは、しっかりとオリジナリティを構築して、ステップアップしているという実績があるからこそ。 振り返ってみたら、こういう時代もありましたよ、的なね。 個人的には、むしろ、こういう音楽も、たまにはやってほしいくらいなんですが、ファンとしてはどうなんでしょう。 ベタで、コテコテで、たまらないんだけどな。 彼らルーツを探るには、非常にわかりやすい作品になっています。