Air/Cook/Sky
先行シングル曲(2)を初めてラジオで聞いた時、イッパツでおれ向き、いやオヤジ向きの歌謡ロックであるなあと思ったのだった。むせび泣くハモンド・オルガン! しかし、途中の、♪余計ツラ~い、の裏声が聞こえるまでこれが矢井田瞳だとはわからず。ヤイコも昭和歌謡復権ブームに乗ったのか? というのは浅薄な感想で、コレは昭和というより大阪の風土なのですナ。デビュー・アルバムに「大阪ジェンヌ」という曲があったように、このひとは声のイメージとは裏腹に根っからの大阪人。そういう意味では今年大ブレイク中の大西ユカリやそのルーツである和田アキ子あたりと同根。この(2)にも、♪足らん心、♪いらん言葉、なんてナニワなフレーズがちょこっと入ってるし。 とはいえ、コテコテのホルモン焼き食い倒れソウルのユカリ姐などとは違ってどこかひんやりともろく、ひとりぼっちな感触があるのがイマドキの“ジェンヌ”たるゆえん。2001年1月のヒット・シングル「I'm here saying nothing」はそんな孤独で、ある種傲慢ないまの若い世代の心情歌として出色だったけれど、そんな若者も生き続けなければならない。ケータイ片手にリストカットでは始まらない。ゆえに(1)。見えないけれども光はある、それを信じるというところまで歌の主人公は成長したのであるかとおれは解したのだった。6/8拍子のこの(1)ではアイルランドのシャロン・シャノン(アコーディオン)、ピーター・オトゥール(ベース/ギター/ブズーキ)が参加、“おだやかな希望”ともいうべき音の風景をつくりだしている。母性の発見もまた新境地で、(1)にも、♪私の胸で一晩お眠り、なんて一節が出てくるし、(7)は林明日香も顔負けの手放しの母親讃歌である。美しいピアノ・バラード(4)、竹内まりや×NOKKO+ヤイコならではの蓮っ葉さが美点の(5)、アラビックな物語歌(8)(英語詞)、塩谷哲の管弦編曲が冴える(11)など佳曲多数。いまのところ彼女の最大の傑作と言って間違いない。