FRIENDS
人気沸騰の綾戸智絵の新作は,そのタイトルどおり,友人たちと好きなナンバーをリラックスして歌うという内容になっている。スタンダードから,ポリスやジョン・デンバーまで,ジャンルにとらわれず,すべて彼女独自の歌にしてしまう個性はすさまじいというほかない。 やっぱりいまノッている人、輝いている人は違うなというのがこのアルバムを聴いた瞬間の率直な感想。綾戸智絵が『FOR ALL WE KNOW』でセンセーショナルなデビューを飾ったのは98年6月だから、ほんの1年ちょっと前のこと。それなのにこれはもう4枚目のアルバムだ。これだけ立て続けにアルバムを出しても、イージーな感じはまったくしない。これまでに蓄積した財産が豊かだから、それを一気に吐き出すような量産ペースがちっとも不自然ではないということなのだろう。それだけではない。これだけ短期間の間に彼女はさらに進歩しつづけている。その点にいたく感心した。話を具体的にしよう。今回綾戸智絵が歌っているのはブラッド・スウェット&ティアーズ、ビートルズ、ポール・サイモン、スティングなどのポップ曲が中心で、そこにスタンダードをまじえた全14曲。以前インタビューした時、「ジョン・デンバーの〈カントリー・ロード〉なんかも好き、ドゥービー・ブラザーズやグレン・キャンベルも大好き」と語っていた綾戸。その「カントリー・ロード」も歌っている。綾戸とカントリーの組み合わせは意外というかいまひとつピンとこなかったが、このアルバムを聴いて納得した。これはもうカントリーではなく、立派なゴスペルに生まれ変わっているではないか。「ビートルズはあんまり分かってません。ビートルズが評判になった頃は小学生で、サッチモやコルトレーンを聴いてました」という綾戸はビートルズの「ヒア・ゼア・アンド・エヴリホエア」をジャズ・スタンダードみたいな感じで歌っているし、逆にスタンダードの「ザ・マン・アイ・ラヴ」はポリリズミックに迫るアフリカン・ムードと、とにかくこのアルバムには意外性と卓越したアイディアがぎっしりと詰まっている。結局なにを歌うかではなく、誰が歌うかが大事なのだ。綾戸智絵という個性的なシンガーのフィルターを通して、おなじみの歌に、またあらたな生命が吹き込まれた。そのことを強く実感させるアルバムだ。 (市川正二) --- 1999年11月号