近未来
キセルのニュー・アルバムのタイトルは『近未来』。懐かしいのに新しい……そんな絶妙なサウンドで届けてくれる彼らにぴったりかも?#ゲストにこだま和文ほかが参加。 ゆらゆら揺れる。確か西山豊乃のアルバムにそういうタイトルのものがあったが、巷に氾濫している“踊ることを強制する音楽”にウンザリしていた人間にとって、今魅力的なのは、そういう“揺らぎ感”を持った音楽だ。さまざまな世界や感情、色彩などの間をゆらゆらと自由に揺れ動く、陽炎のような音。ただしそうした音の中でも、キセルの揺らぎ感はきわめて独特なものである。たとえばかつてのフィッシュマンズ、そして現在その流れを継承しているPolarisなどは、ダビーな音の揺らぎと聴き手が同化することで、空気の中に溶けていく気持ち良さを与えてくれるタイプのものだ。それに対してキセルは、歌と音が気持ち良く浮遊しても、そこまで突き抜けてしまうことはない。つまりその寸止めの揺らぎ感こそが持ち味であり、オリジナリティなのである。ゆらゆら揺れながら、さて今日はどこへ行こう? この2作目には、散歩しているかのような、そんな気ままな楽しさがある。そしてそこが、実にいい。 (小暮秀夫)